三姉妹母ちゃんの日記

日常の雑記ブログ。たまに映画や本の話もします。

なもなきうた

私は誰だ。体が見えない。魂だけがあてもなくふらふらさ迷う。記憶は…、どうだろう。遠くに放つ矢。こちらに向かう矢。左胸に矢が刺さる。血が流れる。馬から落ちる。そうか。私は武士だ。理由も解らぬ戦いをしていた。屍はどこにあるのかも解らない。ただ、ふらふらとしている。ここはどこだ。桜が見える。この道はどこへ続くのか。私の妻はどこにいるのだろう。私の、というのは些か皮肉だ。妻は私の所有物ではないのだから。妻、だ。戦っていたはずなのに、私は妻を探してしまう。私の愛する人。妻もこの桜を見ているか。雪のように淡く美しいこの桜を。大きな舘が見える。爆音が響く。さっきまで桜だと思っていた景色は雪に変わっている。漆黒の夜空から絶え間なく降る雪。妻よ。今も変わらず花を愛しているか。花を愛するように、私を想っているか。もう共に桜や雪を見ることができない。それだけが心残りだ。いつまでもこうして想っていたい。何十年も、何百年も。舘が近い。また意識がなくなりそうだ。ここで君を待つ。何十年も、何百年も。何度年が過ぎよう
と。さようなら